日本ではコウモリが原因で感染症が広がった例がないため、コウモリが媒介する感染症はあまり知られていません。ですが、海外では病気をもたらす害獣として認識が広まっているのでオーストラリアではコウモリ対策として狂犬病のワクチン接種がすすめられていますし、アメリカではコウモリの輸入を禁止しています。

ここでは、コウモリ由来ではないかと疑われている、人獣共通感染症について紹介します。

目次

コウモリのフンから感染「ヒストプラズマ症」

1993年に、ブラジル北部の都市マナウスにある洞窟で、日本人のツアー客8人が「ヒストプラズマ真菌」に感染しました。感染源はコウモリのフンや尿といった排せつ物とされており、洞窟内で空気中に舞い上がった菌を吸い込んだことによる感染であると推定されました。

「ヒストプラズマ真菌」とは、カビの一種であり、呼吸器や傷から体内に侵入し、感染すると「発熱・倦怠感・筋肉痛」といった風邪に似た症状が現われます。この菌は、鳥やコウモリのフンに汚染された土壌やホコリのなかで増殖するため、養鶏業者や建築作業員などが特に感染しやすいことでも知られています。

「ヒストプラズマ症」には、「急性肺ヒストプラズマ症」「進行性播種性ヒストプラズマ症」「慢性空洞性ヒストプラズマ症」の3つの病型があります。「急性肺ヒストプラズマ症」は胞子を吸い込んでから3~21日程度で咳や熱といった症状が出ますが、通常は治療はせずとも2週間ほどで快復しますので心配ありません。「進行性播種性ヒストプラズマ症」は治療しなければ患者の90%が死に至る、一番危険な病型です。初期症状は疲労感や倦怠感といった漠然とした症状ですが、徐々に悪化していきます。肝臓やリンパ節が腫れたり、まれに髄膜炎を発症することもあり、乳幼児や高齢者、免疫力が低下している人が感染すると重篤化しやすいといわれています。「慢性空洞性ヒストプラズマ症」は、ゆっくりと進行する病型で、「体重減少・寝汗・息苦しさ」といった症状が代表的です。ほとんどは治療しなくても2~6カ月ほどで改善します。

コウモリからも感染する「アルボウイルス感染」

コウモリによる感染症で、グアテマラの調査により判明したのが「アルボウイルス感染」です。このウイルスは、蚊やマダニが媒体となって感染します。たいていは感染しても自覚症状はありませんが、まれに麻痺や脳炎といった症状が出ることもあり注意が必要です。

「アルボウイルス」は、ネズミや野生の鳥類といった小型哺乳類が保有していることが知られていました。しかし、グアテマラでの調査でコウモリの間でも、このウイルスによる感染が認められたため、今後コウモリから人への感染源となりうるのか判断が待たれるところです。

いまのところ、「アルボウイルス」に対して有効なワクチンはありません。そのため、感染しないことが第一です。「蚊やマダニに刺されないこと」「動物の死骸を素手で処理しないこと」「コウモリには触れないこと」といった日常的な行動が重要です。

コウモリ対策にはどのような方法があるか

海外では、コウモリが狂犬病類似ウイルスをもっているという前提のもとで狂犬病ワクチンの接種を促したり、厳しい輸入規制を設けたりしてさまざまな対策が実施されています。しかし、日本では人への健康被害が見られず、感染例もないことからこれといった対策がなされていないのが現状です。

コウモリによる被害は感染症だけにとどまりません、天井や屋根裏に棲みつけば「騒音」、コウモリに寄生しているノミやダニなどの「害虫の侵入・増加」、「フンによる悪臭・汚染」といった問題を引き起こします。日本で最もよくみられるアブラコウモリは、体長が5cmほどで小さいためわずかな隙間から建物に入り込み、そのまま何年も棲みつくことが知られています。別名イエコウモリといい、廃屋や倉庫・ビルの隙間など、風雨の防げる場所ならどこにでも侵入し巣を作ります。

棲みついたコウモリを追い払うには、出入りに使っている隙間を塞いだり、コウモリが嫌がる薬剤を散布したり、超音波発生器を設置したり、といった駆除方法が有効であるといわれています。ですが、フンが原因となる感染症やコウモリに襲われる危険性を考えると、自身で対処することはおすすめできません。しかも、コウモリは鳥獣保護法の対象であるため、害獣であっても殺傷・捕獲することは禁止されています。無理に追い出そうとして傷つけたり殺してしまったりすると、違法行為にあたることも駆除対策をより難しくしています。コウモリを見つけた場合は、害獣駆除・対策のプロに頼むのが最善です。

専門業者は、まずコウモリを駆除することから始めます。臭いや光を使ってコウモリを追い出した後に、フンの清掃・消毒を行い、最後に二度とコウモリが棲みつかないよう侵入路を物理的に塞いでしまいます。コウモリに悩まされている人は、一度相談をしてみてはいかがでしょうか。

まとめ

コウモリが引き起こす感染症の種類や、駆除対策について解説しました。コウモリはエボラ出血熱の中間宿主ともいわれていますが、日本ではその脅威が体感できるほどの被害が出ていないため害獣という意識はあまり持たれていないかもしれません。夕方、家の周辺でコウモリの姿を確認したら、どこかに住み着いていないか、フンが落ちていないかなど注意深く観察しましょう。