1935年から営業が始まり、83年間に渡って日本の食を支えてきた築地市場は、2018年の10月6日にその歴史を閉じました。トラブルが相次ぎ、豊洲市場への移転が一時ストップするなど、紆余曲折の移転騒動となりました。懸念されていた問題の一つとしてネズミ駆除の問題がありました。そこで、今回は築地市場閉場の裏側にあったネズミ駆除について紹介します。

目次

築地市場に多く住み着いていたのはドブネズミとクマネズミ

築地市場は多くの食材を取り扱っていたため、ネズミにとってもエサが豊富で、多くのネズミが住みついていたと言われています。また、野菜や魚介類を洗うことが多いために排水溝などの水路が多く、身を隠す場所が多いこともネズミにとっては暮らしやすい環境だったのです。築地市場に住みついていたネズミの数は正確に把握されていたわけではありませんが、数千匹程度いたともいわれています。日本国内で生活しているネズミはドブネズミとクマネズミ、ハツカネズミの3種類がほとんどです。そのうち、築地市場に住み着いていたのは主にドブネズミとクマネズミだったことがわかっています。

ドブネズミもクマネズミも世界中に広く生息しており、ドブネズミは体長が20~30cmほどと日本国内で見かけるネズミとしては大きく、性格は獰猛です。肉食でジメジメした場所を好み、泳ぎが得意という特徴もあります。そのため、築地市場では水産卸市場の下水などに多く潜んでいました。クマネズミは体長が20cm前後でドブネズミよりも少し小さく、警戒心が強い性格です。ドブネズミとは違って泳ぎは苦手な一方、木登りや綱渡りが得意なため、都会ではビルの配線や壁を伝って移動します。ドブネズミと異なり雑食性で、築地市場では青果卸売市場で多く見かけられたネズミです。

築地市場に生息していたドブネズミやクマネズミは、築地市場が移転してしまうとエサ場を失うことになります。そのため、築地市場の移転に伴い、エサを求めて周辺の飲食店や銀座などの近隣エリアにネズミが移動するのではないかという懸念が広がりました。そこで、周辺にネズミ被害が広がらないように大規模なネズミ駆除が行われました。

大量の粘着シートと殺鼠剤入りのエサを投入

築地市場では、2018年5月と8月、そして移転約3週間前の9月15~17日の連休を利用してネズミ駆除が行われました。実際に取られた具体的な対策は、大量の粘着シートや殺鼠剤を置くという方法です。粘着シートは置くだけで済む簡単な駆除方法ですが、ネズミの通り道になる場所に的確に置かなければ効果を発揮できません。ネズミの足跡やフン、何かをかじった跡など、いわゆるラットサインといわれるものがある場所に置かれました。築地市場では、ネズミの通り道と考えられていた溝や排水溝の入り口などを中心に、5月の駆除では4800枚の粘着シートが使用されました。そして、8月には5400枚、9月には7000枚が使用され、使用された枚数からも急ピッチで進められていたことがわかります。

また、粘着シートと同時に殺鼠剤も置くという対策も取られました。築地市場では即効性のある強い毒ではなく、警戒心の強いネズミでも口にする可能性のある弱めの薬が使用されました。殺鼠剤入りのエサを食べてすぐに死ぬことはなくても、弱らせることで粘着シートにもかかりやすくすることを狙ったのです。また、殺鼠剤入りのエサだけを置くのではなく、まずは普通のエサも置いて油断させて、数日後に殺鼠剤入りのエサを置くという工夫も行いました。ネズミは学習能力があるだけではなく、特にクマネズミは警戒心が強いため、すぐには粘着シートに引っかからなかったり、殺鼠剤入りのエサを食べなかったりするためです。これらの駆除対策を行った結果、2017年度は1195匹、2018年度は1773匹の駆除に成功しています。

築地市場ではネズミを外に出さない工夫も!

築地市場のネズミ対策では市場内で捕まえて駆除することも大切ですが、銀座などの近隣エリアにネズミを出て行かないようにすることも重要な目的でした。そのため、築地市場の周囲のフェンスなどに防鼠ネットを張り巡らせるという対策も取られています。ただし、防鼠ネットは隙間ができてしまった場合、間をすり抜けて外に出てしまう可能性がありました。なので、築地市場内で駆除できなかったネズミが、防鼠ネットの隙間をかいくぐって外に出てしまった可能性を考慮して、隅田川の護岸沿いにまでネズミ捕り用のカゴを設置するという対策も施して対処してきたのです。

まとめ

築地市場は多くの食材を取り扱う日本でも屈指の市場でしたが、設備の老朽化もあって多くのネズミが住み着いていました。完全に移転してしまってからでは近隣地域に逃げ込んでしまう可能性があったので、東京都はタイムリミットがある駆除を迫られました。一般家庭では、築地市場のような徹底した対策や大規模な対策は必要ないかもしれませんが、規模が違うだけで基本的なネズミの対処法は同じです。ネズミ駆除にはネズミの習性を知り尽くした専門知識が必須です。一般家庭や店舗でもネズミ被害に悩まされている方は、害獣駆除の専門業者への相談や依頼を検討してみてください。